ボディー側だけの加工
アイバニーズSのボディーの加工
アイバニーズのSと当店で製作したレスポールフラットトップ。
どちらのギターもサぺリ(アフリカンマホガニー)で出来ています。
何故、アイバニーズのギターならばボディー側だけの加工で済むのか?
その理由は、ボディーが鳴るところまでは出来ているギターだからです。
しかし、アイバニーズのギターによく使われるバスウッドやサぺリは、決して弦楽器作りに向いている材ではありません。
それでも、市販のギターに使われる重く硬いアルダーやスワンプアッシュよりは向いています。
バスウッドには柔らかさと軽量というギターづくりに向いた特徴もありますし、サぺリにはその特徴もありませんが、アイバニーズはSの薄いボディーデザインで、材に軽さと柔らかさを補っています。
楽器にしようという意志が見えます。
そんなボディー材に、ちゃんと作ったネックを付ければ、ボディーが鳴るギターは作れます。
しかしそのままではギターと呼べる音は出ません。
でもそこにディマジオのピップアップを乗せれば、バスウッド、サぺリが出してしまうハイミッドを旨く沈め、フラットなイコライジングが出来る・・・
こういう形で完成しているギターがアイバニーズのギターと言えると思います。
値段と品質が釣り合っているメーカー品のギターは、アイバニーズ、ミュージックマン、ピーヴィーなどのこの系列(フロイドローズ/ディマジオ標準装備系)のものだけです。
ギターを道具として売るか、贅沢品として売るかで、販売価格に対する原価の比率は変わってきますよね。
これらのメーカーは、自社商品を道具と考えて販売しているという事です。
ブリッジ周りの座繰りはこのようになっています。
アイバニーズのギターのエンドーサーの出す音は、市販品と同じものを使っているのが良く解るものばかりです。
これは良心的というより時代ですかね。
しかしその中において、Danger Danger時代のアンディー・ティモンズの音だけは、弾いてる人間が異次元なのか、後加工が過ぎるというのか、出来過ぎだと思っていました。
特に、Screw It !日本盤収録のJust what the Dr.Orderedのリフは、音のザラ付きといい、弦の伸びやかさといい、理想的としか言いようがありません。
これがずっと心に残っていた事を、ここ数年取り組んでいるダボ打ち加工を施したギターの音を聴いて思い出せた・・・というタイミングでアイバニーズのSの加工の機会に恵まれました。
ギターの弦のテンションは、ギターの強度によって変わるものです。
ギターの強度が落ちれば、弦につられて動くギターの部分が増えるので、弦のテンションが増して感じられるものです。
だから硬いネックのギターは弦のテンションが低くなり、音も伸びやかになります。
しかしです。
ボディーの強度を落とせば、ボディーが弦につられて動く度合いが増える筈なのに、弦のテンションは下がるのです・・・
今まで、この現象の理由について説明できずにいました。
きっと、事実のみに目を向け情報を整理すれば、状況を把握出来る筈です。
弦のテンションが下がったのは事実なんだから、ボディーの強度を落とした場合、弦につられて動いているボディー材は減っているんじゃないか?
印象論を排して、事実だけを並べて行くと、これしかないのです。
そうなのです。
ギターのボディー材に向いている材はクリスプ・・・つまり脆い材です。
脆いとは、木材の繊維の結束が浅い、短いという事。
材の柔らかさの理由を、柔軟な繊維によって構成されているから・・・とした場合と、繊維の結束が短いから・・・とした場合。
前者はバスウッド、後者は、スワンプアッシュやマホガニー。
エレキギターのボディー材に向いているのは後者です。
このように事実を並べて整理すると見えて来ますよね。
脆い材で作ったボディー材は、ブリッジ周りだけが弦の入力に反応しやすいのです。
逆に言えば、局所(ブリッジ周り)に掛かった力を、その外側に伝える力に乏しい。
だから、弦につられて動きやすい筈のボディー材を選べば選ぶほど、弦につられて動くボディー材の領域が小さくなるので、弦のテンションは下がる。
という事は。
この現象は材料の選別に頼らなくても、人為的に起こせる筈。
今まで、ダボ打ちの作業を、こういう事をやっているのだと解らずに、良い結果が何故か出るので・・・という理由だけでやってきましたが、この段階でやっと自分が何をやって来たのか解りました。
ブリッジスタッド周りのボディー材にぎりぎり貫通しない程度の穴を開けました。
理由は、スタッドが強い入力時に動く余地を作るためです。
サぺリは木材の繊維の結束は浅い様な気がしますが、繊維自体が長く弾力に富んでいるので、エレキギターのボディー材に向きません。
その弾力を、先ずはドリルによる穴開けで切ります。
そこに支えとして、弾力がまるでない材を入れ、弦の入力に応じて動く度合いを調整します。
作業としてはこれだけなのですが、全く別のギターになってしまいます。
当たりとされるヴィンテージギターのボディーの中で起きている現象を可視化するとこういう事なのです。
肝心なのはこの部分だけ、そしてこの部分をトーンウッド(ギター用材)にするのはギターに弦を張ってから。
ギターのネックや、ネックジョイントに強度が無いと、ボディーに弦のテンションを集中させる事は出来ません。
ネック側への逃げ道が塞がれた弦のテンションは、穴開けで繊維が切られたサぺリと、その支えのダボ材に集中します。
そこが疲労し、トーンウッドに変化します。
加工後のギターの音は勿論、元々のサぺリやダボ材の音ではありません。
ヴィンテージギターでも、ギターになる前の木材の音そのままが音になっている訳ではなく、この疲労のプロセスによって元々の材を加工し、トーンフィルターとすることで、ギターの音の作成に成功しています。
楽器の材料論争が余りにも不毛である事が理解出来ると思います。
元々作らなければ無いものを、作りもせず無くなったって言ってるんです。
この作業は、こちらが何を提供しているのかを最も解り易く形にしているものと自負します。
先ずは、ここからのご利用がお勧めです。
特にアイバニーズのS、RGの加工は楽しいですね。
加工後のギターには、演奏の道具として、ギターの究極を感じます。
標準装備されているピックアップも、今までの所、全てギターの音をそのままアウトプット出来るように調整できるものでしたので、ピックアップ交換の必要もありません。、
是非、音質補正後のギターを基準に、周辺機器を選んでみてください。
ピックアップに乗る前のギターの音が既にギターの音なので、それをアウトプットしない周辺機器は全て間違っている。
信じられる基準を持てば、道具選びはとても簡単です。
先ずは、ヴィンテージアンプを置いているお店に行きましょう。