アーティストシグネーチャー
アーティストシグネーチャー。
このギターが全ての始まりでした。
こちらの製作するギターを武道館に連れて行ってくれた、岸田教団&THE明星ロケッツのhayapiさん、そして林勇治さん。
林勇治さんは、毎年恒例の谷村新司さんのリサイタル、THE SINGERで、東京国立劇場大劇場に連れていってくれました。
ヴィンテージギブソンサウンドの67V。
当初、ヴィンテージレスポールJrサウンドの67Vシェイプのギターをというテーマで製作を開始しました。
64年製以降のギブソンギターは、現行ギブソンギターと同じ構造なので現行品の音しかしません。
67年製のフライングVにはヴィンテージ物が無いのだな・・・と、話を頂いて初めて気が着きました。
しかし、予定は予定。
その後大幅に進化というか路線変更。
ボディー横の重りのサイズがどんどん大型化。
目的は、音のスタンダード化です。
ギブソン系スタンダードなサウンドと言えば、それはやはりレスポール。
金属は木材よりも比重が大きく、同重量であれば、木材よりもかなり体積が小さいものです。
なので、木材の継ぎ足しによるギターの音質の補正よりも、元々のギターのシェイプを崩さないまま、大幅な重量増、音質の変化を見込めます。
この鉄のサイド材は、レスポールスタンダードにおけるメイプルトップ材の高能率版といったところですね。
このギターで、金属によるギターの音質補正の方法論が一応完成、そして。林勇治さんのギターが、このギターの後継機種というとちょっと違いますが、進化版として、完成します。
グラフィックイコライザーの周波数スライダーは0を跨いで上下に動かす事が出来ます。
重りだけでの音質調整は0より上方向にしかスライダーを動かしてはいけない・・・という方法論です。
不要な部分を削る事が出来ないので、不要な部分を追い落とす分だけ不要な部分以外を増やさなければいけません。
かなり重くなってしまいます。
そこで・・・
重りを内蔵型にしたのです。
重りを内蔵型にする効果は、重りを内蔵するために、重り内蔵用のザクリをボディーに入れる事により発揮されます。
グライコの喩えで言えば、0を跨いで、出過ぎるところを削り、足りないところを足すのと同じ事ができるのです。
ザクリを入れる作業は、そのまま木材のコシを切る作業と言えます。
コシとは材の弾力の事です。
ホロウチェンバーボディーのエレキギターも多いですが、目的はこれ。
でも、ホローチェンバーでは、グライコでいう周波数スライダーを全帯域に亘って下げる方向でしか音質調整出来ませんよね?
だから、このギターでは、材の弾力を切りながら、重くもしたのです。
弾力を切る作業は、ミドルを削ってのエッジの相対的増強につながり、重さを増す作業はそのまま、エッジを増強する事につながる訳です。
なので、重りだけでの音質調整より軽い重量、ホロウよりも重い重量・・・つまり普通の重量で満足行く音に到達する事が出来ました。
エンドピンが未装着ですが、完成です。
トップも木目を傾けた、柾目のサぺリです。
このギターのお陰で、もうどんな材でもギターの音に出来るって自信が付きました。
更に話は続きました。
ヴィンテージ67Vの試作品も、2017年1月に、お色直ししたのです。
サウンドも更に練れたものになっています。
元、文鎮の収まってたポートにも、真鍮の重りが。
その蓋にも同じ素材の重りが付いています。
ここで重りの意味が若干変わってきます。
ここからはもう、最初から重りをボディー材として考えて作業しています。
このギターでは50年代ギブソンのゴールドカラーも再現しました。
実は、この塗装で使っているブラスパウダーは、一番上の写真の状態のときに塗られている物と同じ。
それをあえてダマになるように塗り、生地研磨痕に流れ込ませながら、トップコートに沈めます。
その後着色、トップコートと作業は進みますが、一本のギターでトップコート作業が二回ある訳です。
おかげでリッチな仕上がりとなりました。
各種ライトのフィルター、野外での刻々変わる日照の角度に敏感に反応し、その都度色を変えるオリジナル通りの仕上がりです。
このギターのサウンドは、岸田教団&THE明星ロケッツのREBOOT全編でお聴き頂くことが出来ます。
ギブソンタイプのギターのサウンドで、ここまでクリーンな歪みを収めた録音作品は今まで無かった筈です。
2017年7月、チェリーレッドのVの更なる音質補正の作業に入ります。
このVの重りが、レスポールフラットトップよりも重くなってしまう理由は既に書いています。
しかし、フライングVにはピックガードがあり、ヴィンテージ67Vは、サイドに重りが付いています。
ボディーに穴を開けても、ピックガードの下や重りの下であれば隠せるのです。
なので、穴を開けて、ボディー材のコシを切る事にしました。
重りも2枚減らしながら、求めるローを掻き出す事が出来ました。
そしてフレットの交換でネックの状況が整った後、最終的な音質補正を施しました。
それは、ブリッジスタッドの横に穴を開けて、そこに別の材を宛がう方法・・・ダボ打ちです。
ダボは16mmで素材はホンジュラスマホガニーです。
ダボ穴の位置的に、穴を開けたままにするより穴をダボで埋めた方が、ブリッジスタッドが弦の振動に振られ難くなる事が想像に易いと思います。
そして、ダボ材がボディー材よりも柔らかければ、ダボを打った後のボディー材の方がダボ打ち前のボディー材よりも柔らかくなっている事になります。
そして次はこちら。
フラットトップのリアピックアップをハムバッカーに交換する為に、P90用にザクられたキャビティーをハムバッカー用に拡張しました。
PU交換の目的は、フロントとリアのノイズのバランスを取る為と、音質補正です。
PU交換で音を変えるのではなく、音を変える為にPUザクりを拡張して、その穴埋めに都合のよい形状のPUをマウントする事を目的としての作業と考えてください。
リアPUのザクりは普通、フロントのそれよりも浅くても済むものです。
しかし、目いっぱいブリッジ前のボディー材を削り取る為、フロントPUキャビティーと同じ深さに設定しました。
結果はかなり劇的なものでした。
ブリッジ周りの強度がザクリで落ち、ブリッジの弦振動に対する追随性が上がったからからです。
Vのボディーの穴開けも、ブリッジ横のダボ打ちの作業も、やろうとしている事は同じですね。
この後、ダボ打ちの技術は更に進化します。
この段階で、より効果的なダボ材を見つけた訳です。
MODツアーに、それを形にしたレスポール・サぺリを参戦させました。
これは更なる赤V改修の手立ての説明と、その結果を知ってもらう事を目的としたもの。
実際、レスポール・サぺリの音は大好評でした。
揮発性の音がする。
機関車みたいな音。
特に印象に残った感想です。
レスポールスタンダードに比べ、トーンフィルターとして働く部分の部品点数が多い訳ですから、音の完成度も実物以上です。
木工でここまでできる!という事を皆に知ってもらえるチャンスを頂きました。
そして、赤Vを最前線に復帰させるべく、加工・・・
この写真では、1弦側にホワイトウッド、6弦側にマホガニーのダボが見えています。
この状態では音に切れが無いし、若干ピーキー、ローも寸胴な音でした。
くびれが欲しいのです。
ブリッジの位置の再設定の必要もあったため、結局、1弦側、6弦側両方のダボをドリルで抜いてしまい、再び、ホワイトウッドのダボを両側に入れました。
ちなみに、マホガニーのダボよりも、ホワイトウッドのダボの方が柔らかい材を選んでいます。
ホワイトウッドのストレートな長いダボだと、弦の振動に対して吸収力があり過ぎる。
だから、ローが押せないだろうと考え、元から入っていたホンジュラスマホガニーのダボを適宜残し、その上にホワイトウッドのダボをいれました。
「とある化学の電磁砲T」のエンディングテーマ「nameless story」でメインギターの座を金Vから奪い返しました。
「nameless story」 通常盤のジャケットには金Vが登場しているんですが・・・
hayapiさんの赤Vの後(重りの後、穴開けの前)に製作したヴィンテージ67Vが帰ってきました。
このギターをヴィンテージ67V完全版へ。
見た目、あまりにスマートすぎる作業で結果が出てしまいました。
重りも穴開けもありません。
ここ数年間の研究の成果を見ていただく事が出来ました。
ソリッドボディーのギターの中で何が起きているのか、ようやく完璧に把握できたかな・・・?という所に到達したと思います。
ここでの進歩は、ダボに直接ブリッジスタッドを打たないというもの。
赤Vで既に、ブリッジスタッド穴の横にダボを打つという方法論に関しては採用していました。
その後、ダボにダイレクトにブリッジスタッドを打つ方法に切り替え。
そしてダボ打ちの位置に関しては先祖がえりし、ダボ材の選択を変えた。
ここでは、母材の音質的に良くない部分を消す為にダボ打ち・・・ではなく、ダボ材と母材の役割分担について考えられるようになって来ました。
これもやはり、結果で判断出来る皆さんのお陰です。
2020年6月、とうとう林勇治さんのレスポール・フラットトップも完全版化できました。
写真は、レスポール・フラットトップのリアピックアップキャビティーです。
こんな角度でドリルの刃を入れています。
理由はやはり、ブリッジスタッドにダボ材を触れさせない為。
もうこの段階では、音の口を閉じる能力の高いサぺリ、音の口を開く能力の高いホワイトウッドというように、材それぞれの役割分担について理解出来ていました。
速い入力にはホワイトウッドが、遅い入力にはサぺリ側が反応することで、理想的なギターの音が作れるのです。
サぺリ側にブリッジスタッドがねじ込まれており、そのブリッジスタッドに直接触れない場所にダボ材用の穴を開けています。
遅い(弱い)入力があると、弦の振動がサぺリの範疇に収まり、速い(強い)入力があると、その入力がサぺリの範疇に収まらず、その下のホワイトウッドに届きます。
その瞬間だけ、ホワイトウッドの音がし、弦振動が減衰してホワイトウッドに影響出来なくなると、今度はサぺリの音になる。
ヴィンテージギターでは、元々音の口の開く材でボディーをソリッド構造につくり、そのブリッジ周りにピックアップザクリを設けて強度を落とし、そこにテンションを集中させることで部分的に劣化させ、トーンウッド化しています。
ギターの完成後、弦の振動により、2種類の材になるように作ってあるのです。
それを可能にする為には、疲労しやすい材・・・つまり、音の口が開き易い材を使うしかありません。
しかし、このダボ打ちの工法であれば、音の口を閉じる能力が強過ぎ、ギター製作後にブリッジ周りだけ疲労するということが無い材でも、その弱みを、強みに変えられるのです。
母材に音の口が閉じすぎる材を使い、ダボ側に振動による疲労が過ぎ、音の口が開きすぎて音の実在感が乏しくなってしまう材を用いれば、音の口の開閉がヴィンテージギター以上のコントラストを持って体感できるボディー材になります。
これは、単一素材を厳選しても、到達不可能な領域にある音です。
足掛け何年のプロジェクトになったのか、もう数えませんけれど、思ってもみない程の進化、深化を達成できたと思います。
皆さんの活躍と、それに伴うギターの進化(きっとまだあります)、とても楽しみです。
そして、ここに名を連ねるギタリストが増える事も。
続きはこちら→LP-Sアルダー
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