現行ギブソンの音作り
70年代ストラトのフロイドローズ改造。
今、この年代のギターも値段が高くなってしまい、このような作業を請け負う事は今後はもうないかもしれません。
現行ギブソンの音作りの説明だと思ってこのページを開いたら、フロイドローズストラトが出て来たので、???となったでしょうか?。
フロイドローズブリッジが出て来て、その使用目的がストラトの改造となる事で、一般の人にも現行品のギブソンが何をやっているのかが解るチャンスが出て来た時代がありました。
なので、ギブソン、フェンダー以降の時代のギターメイカーのいくつかは、その技術を使って自社ブランドとしてのアイデンティティを確立したという経緯があります。
この度、70年代ストラトのフロイドローズ改造と、ワーウィックのベースの音質補正を承りました。
70年代ストラトのフロイドローズ改造のノウハウをそのまま自社製品に落とし込んだメーカーに、ワーウィック、キラーギターズがあります。
ポールリードスミスも年代的にフロイドローズを受けて・・・という時代に出て来たのと、音もそうなので、この系譜にあるものなのかもしれませんが、見た目モズライトとそっくりなので、ポールリードスミスはモズライトの系譜なのかもしれません。
モズライトギターはヴィンテージ期から既に、ギブソンの現行品と同じ音作りをしており、時代が求めたので形を変えてポールリードスミスとして復活したのかもしれません(実際ヴィンテージモズライトを作っていた人は盗まれたと直接私に言いましたが)。
エレキギターのメインストリームをギブソン、フェンダーとした場合、フェンダーはフェンダーオリジナル商品で、ここまで述べた音作りの系譜にあるものを発表したことはありません。
そのフェンダーギターで、ギブソンの64年以降のギターに採用された、ネックジョイントで音を作る方法を再現するには・・・
この技術は、ヴィンテージ期のフェンダー、ギブソンギターのボディー材に有った柔らかさという材質を、ギターの構造の柔らかさに置き換えたものです。
理由は、その必要があったから・・・です。
モズライトやそれと同じ構造のポールリードスミス、キラーギターの上位機種、ワーウィックのベースは、ギブソンが力加減でやっていた事を機構に置き換えているので、目で見てわかります。
ネックジョイントが物凄く浅く、ネックがボディーにちゃんと接着出来ない様になっています。
モズライト、ポールリードスミス、キラーギターは、フロントピックアップザクリが、ボディーとネックの接合部分(所謂ネック起きポイント)に極端に近いのです。
ネックをボディーにきちっと接合出来ないようにし、ヴィンテージ期のギブソン、フェンダーギターのボディー材に有った柔らかさを、そこの弱さで代替する為です。
ピックアップザクリ以降までネックジョイントザクリが続き、ピックアップザクリでペラペラのネックがその部分まで来ているのは、ネックの接合は緩く行きたいが、センターズレは困るからです。
これは弾いている時の話ではなく、ギターのヘッドをぶつけたりして、てこが働いてしまった時の話です。
で、それらの大本になった楽器の構造なのですが。
フロイドローズトレモロは、ストラトオリジナルのシンクロナイズドトレモロよりも背が高いので、マウントに際して、ネックジョイントにシムを入れるなりして、ボディートップからの弦高を確保しなければなりません。
この作業の中で、かなりの人が現行ギブソンの音の作り方を知ったと思います。
ネックシム。
これは、ネックポケットの奥に入れるのが常だと思います。
しかし3点留めの70年代ストラトのマイクロティルト機能では、このシムに該当する可変式の出っ張りが、後ろのネック固定ネジの前にあります。
これでも大丈夫とメーカーも認めた形になります。
これを見た人が現れた後にフロイドローズ時代が来ます。
ネックシムを一枚作って、それで必要な量ネックを持ち上げることが出来なかった場合、新たなシムを作るより、シムをネック固定ネジ前列に近づけてゆく方が邪魔くさくない・・・
これに気が付くのは人間の普通だと思います。
ネック固定ネジ前列にシムが近づいて行けば行くほど、シムの厚みは変わらなくてもネックのセット角は大きくなりますからね。
この中で、とても大きなギターの音質の変化が起きます。
なぜかというと、ネック固定ネジ後列が、ネック固定の為に働かなくなるポイントがあるからです。
ネックジョイントを横から見て、ネック固定ネジ前列と後列の間に、丁度シーソーの支点のように働くシムが・・・
となると、ネック固定ネジ後列のネジの働きは、ボディーにネックを引き寄せ圧着する・・・から、ネック固定ネジ前列を弦のテンションがネックを介して引きはがそうとする力をアシストするものに入れ替わりますよね?
仮想ネックポケットのネック接地面とネックの摩擦力に関してはシムなしの時と変わらず、ネックのボディーへの固定力だけを落とす事が出来るようになります。
これをシムなしでやろうとすると、ネック固定ネジを前列しか効かないようにする為に、ネックポケットの縦の長さを短く、そしてネック側の固定ネジ穴後列以降を短く切る・・・
これでお辞儀機能の完成です。
そしてそうする事でネックのセンタリング維持の為の固定力が落ちた分、ネックポケット横をタイトにするか、ディープジョイント部を作るかしかありません。
それが形になったものがキラーギター、ワーウィックのべ―ス、モズライト、ポールリードスミスです。
現行ギブソンは、ネックのセンタリング力を接着剤によって維持し、ネックジョイントの圧着強度を下げて、ギターの構造としての弱さを作っています。
これらのギター達は、吊るしの状態でも、アンプ直で、そこそこギターの音になっている筈です。
それはこのネックジョイントによる音作りのおかげです。
写真のフロイドローズストラトは、ネックも硬く、ネックジョイント調整に時間を掛けられた事もあり、市販品には無い完全なギターの音域に嵌るギターになりました。
80年代中期から90年代初頭の音を出したいとなると、このギターに敵うものは無い筈です。
そしてここからは、ワーウィックのボディー側で行われている音作りと、その改良作業についてです。
このベースには、写真のブリッジの下に、ブリッジの台座があるのです。
このボディー材はソフトメイプルです。
それ単体ではおよそエレキギター、ベースのボディー作りに向かない材です。
なのにバランスが悪いながら、ミッドは張り出さず、音としてはローが出ています。
つまりこの楽器の音は、木材の音ではないという事です。
木材の音ではないものの、ベースの音になっている一つの理由は、先に説明した縦に浅いネックジョイント、ネックジョイントネジ後列の、圧着力としての無効化があります。
しかしこのメーカーはスルーネックのベースを主力商品としています。
その場合、この手は使えません・・・
で・・・
このブリッジ台座は、ネジ2本でボディーに固定されており、そのサイズは、ブリッジザクリより一回り小さく、ザクリ壁面のどこにも触れないように作ってあります。
このネジの固定力。
これを使って、弦を弾いたときのブリッジ下の反応を作っています。
解りやすく言うと、ネジを緩めるとブリッジ台座とボディーの摩擦力が減って、弦の振動につられてブリッジが動く率が高まるのです。
これは柔らかいボディー材にブリッジをきちっと固定したのと同じとはいえないまでも、似たような音に出来るものです。
スルーネックのギター、ベースは、どうあがいてもボディーの強度をネックよりも小さくする事は出来ません。
ネックとボディーの素材が同じなのでスルーネックなのです。
ボディー側のネック材の方が、厚み、幅が大きく、しかも短いのですから、そちら側に弦振動が流れる構造に作るのは無理です。
しかしこの方法なら、擬似的にボディー側に柔らかさを与える事が出来ます。
ネックとボディーが同じ材で作られていても、ボディー側を柔らかく作れます。
この楽器における音質補正作業は、ネックのお辞儀とブリッジ台座の動き過ぎでドンシャリが過ぎるのと、1弦から4弦に向かって弦の重さに比例して音が太くなってゆく、そのテーパーのバランスの悪さの是正が目的です。
こちらでは、ベースの音質補正を、ベースラインが弾ける楽器に・・・を目的として請け負っています。
簡単に言えば、4弦3弦を使い物にする事です。
この楽器の為に作り直したブリッジ台座。
このベースの中域の無さも、3弦から4弦に向けて急に音が拡散するのも、ブリッジ台座の動き過ぎが原因です。
そしてそれは楽器らしい音ではあるものの、木材の音ではありません。
なので、ブリッジ台座をブリッジ台座ザクリとピッタリのサイズに作りました。
緩める前提のネジ穴とネジ径の関係も変えました。
この、木材で作ったブリッジ台座にブリッジがダイレクトにマウントされ、木材の強度がブリッジの動きを制御し、音を作るようにしました。
ここの動きが、縦の長さが浅いネックジョイントと、ネック固定ネジ後列の後ろがほとんどない設計から来るネックのお辞儀よりも、音として先に来れば作業は成功となります。
そうなるように、ブリッジ台座用の木材を吟味しました。
ネックのお辞儀構造よりも、ブリッジ台座の木材の方が柔らかくなるように材を選んだ訳です。
この2つの作業は、ギブソン、フェンダーのヴィンテージを第一世代エレキ、ギブソンの現行品を第二世代とすると、ストラトのフロイド改造では第一世代のハズレを第二世代化し、第二世代のワーウィックを第一世代化するというものでした。
この中で、自分がやりたかった事の輪郭を再確認できたと思います。
スチールギター、エレキギター第一世代でようやく、木材の音を楽器の音に出来るようになったんだから、エレキの音は木材の音でないといけない。
エレキギターと、その他の弦楽器との違いはそこにしかないのですから。
フロイド改造した・・・つまりここでいう第二世代化させたエレキギターは、箱型のアコースティック弦楽器の音質作りと同じ形で音を作っている楽器です。
木材で作られているから、アコースティック楽器の音は木材の音だという判断は印象論に過ぎません。
第一世代のエレキギターをちゃんと作れるようにならないと分からないと思いますが、アコギの音、バイオリン属の音は、ブリッジとブリッジ下の木材が、今回のストラトのネックジョイントのように、お辞儀する構造になっているから出るものです。
弦のテンションが集中するブリッジ下は、補強しないといけない場所です。
その補強により、補強した部分の隣が応力の集中ポイントになります。
そこがアタック時、お辞儀する。
そのアクションが、弦の音を楽器の音に加工する。
これは人間が作った構造ですよね?
しかしギブソン、フェンダーの第一世代エレキは、その構造を広葉樹の内部構造に求めて作られています。
木材自体の体重のいなし方が、針葉樹と広葉樹では違います。
広葉樹の方が、虎杢が出やすいのは皆さんご存じかもしれません。
これは針葉樹は弾力で、広葉樹は自身の蛇腹構造にテンション(自重)を逃がすからです。
私はこれ(広葉樹の蛇腹)をレゴ状ジョイントと呼んでいますが、このレゴ状ジョイントの硬さが、樹種、同一樹種内の個体差により違うのです。
ネックのコンディションを整え、そちらに弦振動が逃げないようにし、弦のテンションが、そのチューニング時にはレゴ状ジョイントを外せず、アタックの時、弾く強さによっては外れ、減衰に合わせて戻る強度の材料をボディー材として宛がう・・・
これがヴィンテージエレキギター作りです。
この動きが発する音をピックアップし、皆の耳に届けられるPA環境が出来上がったから製作可能となった楽器がスチールギターであり、第一世代のエレキギターです。
今もその後の時代なのだから、それをやれる人ならばやるべきだろう?と思っています。
弦楽器づくりにおいて、材を生かすとするならば、これ以上のものは無いのです。
だからエレキギター。
それが私の今のところの結論です。