作業の手引き
各過程における注意点とアドバイス
1 ギターに元から着いてるナットの弦溝調整
この作業の目的は、ギターのナットは0フレットの替わりである事を理解する事に有ります。
そして、市販のギターのナット溝の深さ設定は、無難なものであり、基準として信じて良いものではないという事を実感する事にあります。
ナット溝の深さは、弦高にも影響を与えます。
弦高調整は、ブリッジ、ネックの反り調整によって行います。
それが決まれば、ピックアップの高さも決まります。
ここで基準として機能するのがナット溝の深さです。
ギターのセッティングの基準が、基準として信じられるものでないと、以降の調整が甘くなってしまう事、妥協の産物になりえる事、そしてそれは遠回りである事を理解しましょう。
2 ネックのエッジ、フレットのエッジの仕上げ
ギターネックの指板のエッジ、フレットエッジの仕上がりは、ギターの感触としてとても伝わってくる部分です。
フレットエッジは複雑な形をしています。
そのどこが、ネックを握った時の快、不快につながるかは意外と解り難いものです。
ここでは、自分の感じ方から、その感じ方を催させた原因箇所を特定出来るようになる事を目的とします。
手触りと見た目の一致を目指しましょう。
3 フレット擦り合わせ
この工程では、ギターを弾く事ですり減ったフレットとそうでないフレットの高さを揃える事を目的とします。
市販のギターではほとんどの場合、弦を張る前(弦のテンションがネックに掛かる前)の段階でフレットの擦り合わせをしています。
ギターが商品になってから、フレットが全く減っていなくても、ネックの状態は、弦のテンションに曝される前とは違っています。
弦を張られる前には確かに真っ直ぐで、フレットの高さも揃っていた筈のネックが弦のテンションでどう動くのかを目で確認していただきます。
4 同じくフレット擦り合わせと、リクラウニング
高さを揃える為にてっぺんの部分を削り取ったフレットに、再び丸い頭を付けてやる作業です。
指板上で高さが揃ったフレットのてっぺん部分の幅が思いのほかバラバラ・・・つまり高さを揃える為に削った量が各フレットで結構違う事を実感出来る作業です。
削って出来た平らな部分の幅が広ければ広いほど、フレットの頭を丸めるのに時間が掛かります。
その箇所が、何故そうなのか?という疑問を、ネックの補強作業終了後の指板修正(整形)の時まで保留しておいてください。
5 フレット研磨
その名の通り、フレットを磨いてゆきます。
ここでの目標は、勿論フレットを磨いてゆく事でもありますが、それ以上に、自分の体の形について意識出来るようになる事にあります。
自分に対し、ネックを横に置いて研磨作業をしますが、ネックは長いので複雑な体の運用をしないと、旨く研磨ができません。
人間の体の形に対する客観性の芽生えのきっかけを得られれば目標達成です。
この段階で現状のギターのポテンシャルは最大限引き出せています。
この状況のギターを覚えて頂く為、しばらくお使いいただく事をお勧めします。
6 ナット外しとフレット抜き
せっかくここまで自分で整えたフレット、ナットですが、ここで捨ててしまいます。
ギターの日常のメンテナンスが出来るようになる為の受講で有れば、この工程以降は必要ありませんが、音質補正までの受講をご希望の場合、本番はここからです。
有るものは何でも使う。
無駄は出さない。
これがモノづくりの基本だと思います。
元のフレット、ナットを練習に使ったという事です。
また別のギターを用意して、以降の工程に進んでも良いです。
ここでの作業で、フレットとネックとの接合方法、構造を、手ごたえと目視で理解してください。
7 指板整形
文字通りの作業なのですが、まだ本番では有りません。
最終的な指板整形の作業に先立っての練習を兼ねて、加工ジグをネックに貼る時の安定性を確保する作業です。
この作業で、指板の畝りの目視が簡単になります。
ここでの経験は、日常のネックの反りチェックから得られる情報を格段に上げる筈です。
普段のネックの状況把握の精度も上がります。
8 フレット溝に埋めてあるパテの除去
フレット溝の指板横の露出部分処理の仕方は、メーカーの違いによってまちまちです。
バインディングで塞いであったり、溝の底近くの部分だけパテなどで埋めてあったり、指板のエッジ部分の手前でフレットのタンを切ってしまい、指板エッジから見えるフレット溝全部を埋めてあったり・・・
この作業は、フレットを抜いた後のフレット溝の掃除の作業と考えてください。
9 補強材溝堀り
ネックに指板側から、補強材を入れる為の溝を切ります。
事前に整えた指板面に両面テープでジグを貼り、ラミネートトリマーと呼ばれる工具で加工します
ラミネートトリマーは電動工具です。
危険が伴いますので、細心の注意が必要です。
防塵マスク、作業用ゴーグルなども必要になります。
ジグを貼るときに使った両面テープの台紙は後に使うことになりますので保管しておいてください。
10 補強材の加工
今度は溝の形に合わせて補強材の形を加工します。
補強材はカーボンなので、ここでも防塵マスク必須です。
11 補強材蓋の加工
ネックに補強材を入れる為の溝を掘り、そこにその溝の形に加工した補強材を入れます。
今度はそこに蓋をする為の充て木を作ります。
これは補強材を入れる為に掘った溝と同じ形に作ります。
ここが綺麗に決まれば、出来上がりも綺麗です。
この作業では、自分の癖、自分の手首の構造などど向き合う事になります。
目的通りに自分の手が動くかどうか。
目的通りの形に、材を加工できるか。
最初はなかなかうまく行かないかもしれませんが、自分の事が解れば出来るようになります。
この作業は、補強材用溝切り作業と同じく、汎用木工においてもとても役に立つものです。
12 フレット溝に接着材が流れ込まない様に養生
指板に補強材用の溝を切り、そこに補強材を入れます。
その時にエポキシ接着剤を、溝、補強材両方に着けるのですが、これがフレット溝に流れ込んでしまうと、もう取り返しがつきません。
ですので、ここでの作業は厳重に。
フレット溝に接着剤が流れ込まないようにする為に、両面テープの台紙を使います。
補強材溝を掘る時にジグを指板に貼りますが、その時使った両面テープの台紙を活用します。
13 補強材をネックに仕込む作業
既に補強材と蓋に関しては補強材溝に合う様に加工しました。
それらをエポキシ接着剤で接着します。
接着に使うエポキシ樹脂は、固化する時間別に種類が色々用意されており、この作業では24時間硬化型のものを使用します。
エポキシが固化してしまうと、フレット溝マスキング用の両面テープの台紙が引き剥がせなくなります。
エポキシの完全固化の前に剥がす必要が出てきます。
ですので、両面テープの台紙を剥がす作業に関してはこちらでやる事になりますが、ご自分でやってみたい場合スケジュールの相談をお願いします。
14 補強材蓋の余分をかんなで削る
エポキシの完全硬化の後、指板面からはみ出したエポキシと、余裕も持った厚みに作った補強材溝の蓋材を削り取ってしまいます。
作業には鉋を使います。
ホームセンターなどで、替え刃式の小さな鉋を用意しておいて頂く必要が有ります。
補強材溝の幅は7㎜弱です。
その幅をカバーできれば良いのです。
鉋を扱う訓練(手首を固めて腰で引く)にもなります。
15 フレット溝を補強材蓋に繋げる
指板のフレット溝はここまでの作業で掘った補強材溝で途切れ、そこにはフレット溝の無い蓋材が充ててあります。
既にあるフレット溝をガイドに、蓋材にフレット溝をのこぎりで刻む作業になります。
この作業も、ご自身の体の癖や、人間の体の構造を意識せざるを得ないものなので、色々な道具を使いこなす際のヒントが沢山詰まっていると思います。
16 指板最終成形
既に練習を済ませている指板整形と、フレットのレベリングの経験を生かして、最終的な指板の整形をします。
ここでの作業の精度はそのままフレットを打ったあとの指板面・・・つまりフレットのトップの揃いに反映されます。
この作業で不備があれば、それはフレットのレベリングにしわ寄せとして出てきます。
最短距離は、一つ一つの作業で帳尻を合わせてしまい、後の作業に持ち越さない事です。
何事にも共通する教訓ですが、それがとても解りやすく見える作業になります。
17 フレット打ち
文字通り、フレットをフレット溝に打ち込んでゆく作業になります。
打ち込むというよりはハンマーを使ってフレットを溝に押し込むと言った方が正しいと思います。
フレットを指板のRに合わせて曲げ、適当な長さに切り、打ち込む。
指板の整形、フレットの曲げがまずいと、フレットの端っこが浮いてきますし、フレットをハンマーで叩く時、力が一部分に集中してしまうと、フレットが曲がってしまいます。
金属は曲げると、その部分が強化されてしまいます。
つまり一度曲げると、修正不能になってしまうので要注意です。
18 フレットエンド処理
フレットエンドが今の状態では指板のエンドからはみ出ています。
これをエンドカッターで切り、更にやすりで指板のエンドと面一にします。
エンドカッターでフレットを切る時に入れる力の方向如何で、フレットをフレット溝から引き出してしまったり、エンドカッターが指板エンドを傷つけたりするリスクが有る作業です。
かなり力が必要です。
19 フレット擦り合わせ、クラウニング
この作業も事前に練習済みですね。
慣れが出て、手抜きにならない様に、一回目より上手に仕上げましょう。
20 フレット研磨
上に同じです。
21 ナット整形
ナット材を加工して、指板(ネック)のナット溝にぴったりのサイズに加工します。
荒材をスクエアに加工する工程です。
鉋作業や、指板面の整形の経験を生かして、手首を固める事、腰を入れて作業する事、材の状況を的確に認識する事が必要です。
ナットがナット溝にぴったりフィットしたらギターを組み込みます。
22 ナット溝切り
この作業も事前に練習済みです。
しかしここでは、溝の間隔の位置決めから自分でやらなければいけません。
先ずは弦を張れる状態まで持って行き、溝の深さの追い込みは弦をチューニングしてからになります。
23 ナット溝切りとナットの仕上げ
ギターに弦を張り、ネックのロッド調整をします。
弦高の調整もしましょう。
その後、ナット溝の増し切りを進めます。
ナットの溝が深くなれば、弦高が下がります。
それに合わせてブリッジ高も調整・・・という様に各部の精度を高めて行きます。
24 ボディー側の音質調整
もう既に弾ける状態のギターですが、音はどうでしょうか?
ネックに関しては完全に状況は整っていますがボディーは今の所手つかずですね。
このままで良いボディーもたまにはあるかもしれませんが、十中八九そんな事は有り得ませんので、ボディー側の加工に入ります。
市販のギターはネックが弱いという事に関しては共通しているので、その問題解決法は画一的になります。
しかしボディーに関しては、重すぎる、固すぎる、軽すぎる、柔らかすぎる、などと問題は多岐に渡ります。
実習に持ち込まれたギターによって補う作業がバラバラなので、状況を見て作業の方向性を決めます。